「103万円の壁」見直しで手取りは増えるけど?

103万円の壁

2024年12月9日

「103万円の壁」の見直しの議論で、いま世の中は盛り上がっています。
テレビなどで一般市民へのインタビューを見ていつも感じるのは、「なんであんなに税金に対して拒否反応があるのだろう?」ということです。
たくさん働けば、収入が増えて生活が豊かになるし、人手不足の解消になるし、税金もたくさん払って社会保障もよくなるし、よいことばかりなのに、なんで税金をとられることに抵抗があるのでしょうか? 税金を取られることにあまりピリピリしないで、税金が世の中の福祉を向上させるんだ、と考えたほうがよいと思うのですが、いかがでしょうか?

いま国民民主党が提案しているのは、現状「103万円の壁」を「178万円の壁」に改正すれば、税金を軽減できて手取りが増える、というものです。
しかし、この改正案を実現すると、税収が7兆円~8兆円減るということが報じられています。
これにより、地方財政がひっ迫するということも報じられています。

どうすればいいか?
私は、「103万円の壁」を「140万円くらいの壁」に改正すればよいと思っています。
国民民主党が提案している「178万円」は、「最低賃金の上昇率」を根拠にしています。
仮にこれを「物価の上昇率」を根拠にすると、「178万円」ではなく「117万円」になると報じられています。しかし、これでは節税効果が弱く、「改正」したとは言いがたくなります。

そこで、私の提案は「名目手取り賃金上昇率」を根拠にする、ということです。
公的年金の年金額は、毎年改正されています。
この改正額の根拠になっているのが「名目手取り賃金上昇率」です。
物価と賃金の上昇率が両方加味されているのです。
「名目手取り賃金上昇率」を改正の根拠にすれば、「103万円の壁」が「140万円くらいの壁」になり、税収減による「地方財政のひっ迫」も少し軽減されるのではないかと思います。
「これでも地方財政のひっ迫」は軽減されない」ということになれば、しょうがない「富裕層からの増収」を検討しなければならないでしょう。
国債で補うことも考えられますが、いま国の借金が1,200兆円もあることを考えると、将来世代への負担を増やすことになるので避けたいですね。

最後に、「103万円の壁」を「178万円の壁」に改正した場合の「節税効果」について解説します。
年収103万円の場合、どのくらい税金がかかるか、試算してみました(表1参照)。

表1.年収103万円の場合
所得税 住民税
給与所得控除 55万円 55万円
給与所得 103万円-55万円=48万円 103万円-55万円=48万円
基礎控除 48万円 43万円
課税所得 48万円-48万円=0円 48万円-43万円=5万円
税額 0円×5%=0円 5万円×10%=5,000円
合計 5,000円

 

一方、年収178万円の場合、どのくらい税金がかかるかも、試算してみました(表2参照)。
すると、所得税と住民税の合計額は、117,500円です。

表2.年収178万円の場合
  所得税 住民税
給与所得控除 55万円 55万円
給与所得 178万円-55万円=123万円 178万円-55万円=123万円
基礎控除 48万円 43万円
課税所得 123万円-48万円=75万円 123万円-43万円=80万円
税額 75万円×5%=37,500円 80万円×10%=80,000円
合計 117,500円

 
年収103万円と年収178万円では、税額117,000円の差です。
つまり、改正すれば、年間約12万円の節税になるというわけです。
年間約12万円の税金が減ることになれば、家計はたいへんラクになります。
物価が上がる中、月1万円の手取り収入アップは、大いに助かります。
また現状では、103万円の壁を超えて働くと、税金がかかることを理由に、働き控えをする人がたくさんいます。
特別扶養控除の対象になる学生の場合は、アルバイトで103万円の壁を超えて働くと、特別扶養控除の対象からはずれることにより、親の税金が増えてしまうので、やはり働き控えを行う学生が増えます。
人手不足の時代にあって、働き控えをされると、事業主が困るという現象も生じてきています。

ということで、「103万円の壁」を「178万円の壁」に改正すれば、手取りが増えるメリットと働き控えを防げるメリットが生まれる一方、改正により毎年7兆円~8兆円「税収減」があると試算されているので、社会福祉政策が大幅に低下することが懸念されています。
子育て支援金が手当できなかったり、高齢者向けのサービスが低下する懸念があります。