-
年金の「繰上げ受給」と「繰下げ受給」
週刊誌などでさかんに「年金は何歳からもらうのが一番お得か?」などの記事が載っています。
「年金はもうすでにもらっているから関係ない」という方もいらっしゃると思いますが、これから年金をもらい始める後輩へのアドバイスという視点で本文を読んでいただければ幸いです。まずは、「年金の繰上げ受給と繰下げ受給」のおさらいから始めましょう。
65歳からもらえる老齢年金を65歳より早くもらうことを「繰り上げ受給」といい、65歳より遅くもらうことを「繰下げ受給」と呼んでいます。繰上げ受給すると、1ヵ月繰上げるごとに5%減額されます。例えば、65歳からもらえる年金を60歳まで繰上げてもらおうとすると、30%減額された年金をもらうことになります。この場合、早くもらえるというメリットがある反面、76歳8か月以上長生きする場合は、受給累計額で見ると損してしまいますので、あまりお勧めではありません。逆に繰下げて70歳からもらおうとすると、42%増額されます。この場合、増額されてもらえるというメリットがある反面、81歳11か月以上長生きしないと受給累計額で見た場合、損してしまいます。これら損得ぎりぎりの年齢のことを「損益分岐点」と言っています。(下表参照)
受給方法 請求時年齢 受給率 損益分岐点 繰上げ受給 60歳0ヶ月 70% 76歳8ヶ月 受給累計額が65歳受給者に追いつかれる年齢 61歳0ヶ月 76% 77歳8ヶ月 62歳0ヶ月 82% 78歳8ヶ月 63歳0ヶ月 88% 79歳8ヶ月 64歳0ヶ月 94% 80歳8ヶ月 本来受給 65歳 100% 繰下げ受給 66歳0ヶ月 108.4% 77歳11ヶ月 受給累計額が65歳受給者を超える年齢 67歳0ヶ月 116.8% 78歳11ヶ月 68歳0ヶ月 125.2% 79歳11ヶ月 69歳0ヶ月 133.6% 80歳11ヶ月 70歳0ヶ月 142.0% 81歳11ヶ月 -
年金の繰下げ受給のメリットとデメリット
-
年金の繰下げ受給がお薦め
人生100年時代と言われる現代は、やはり長生きのリスクに備えて繰下げ受給の方を、筆者は勧めています。
いま日本において60歳の人の平均余命は、男性23.97年、女性29.17年です。つまり今60歳の男性は84歳、今60歳の女性は89歳まで生きてしまうのが普通です。平均的に長生きすれば、年金を繰下げてもらった方がメリット大と言えそうです。 -
年金の繰下げ受給をめぐる最近の法改正
年金法改正により、2022年4月からは、75歳まで繰下げ受給できることになりました。75歳まで繰下げ受給すると、84%増額された年金をもらえることになります。つまり2倍近くにまで年金額が増額するのです。ただし、この場合、86歳11か月以上長生きしないと、受給累計額で見るとデメリットが生じてしまいます。
しかし、今60歳の女性は89歳まで生きるのが普通ですから、繰下げ受給することは大いにメリットがあると思います。男性に比べ女性のほうが年金繰下げ受給のメリットは大きくなると思います。
-
結論は?
週刊誌などでは、「年金の繰下げは得か損か?」などが盛んに報道されていますが、やはり「損得」で判断するのではなく、ご自身の「ライフプラン(人生設計)」よって判断することが大事です。
「定年後はどんな人生を送りたいのか」をしっかり考えて判断していただくとよいと思います。
ちなみに筆者も、ライフプランを考えて70歳から年金を受給し始めています。 -
参考ホームページ
「繰下げ制度柔軟化」(厚生労働省年金局)(2019年10月18日)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000558227.pdf
年金を繰下げ受給すると、年金額が増額されて生活に余裕が生まれます。旅行やゴルフなどお金のかかる趣味にもこころおきなく出費できます。しかし、70歳まで繰り下げた場合、70歳までの生活費をどう工面するかが問題になります。働いて勤労収入があるとか退職金がたくさん残っているなどの理由で生活費に困らなければよいのですが、年金収入がなく生活が困窮する場合は、繰下げ受給はむずかしいということになります。
そこで、年金の繰下げ受給のメリットとデメリットを整理してみると下表のようになります。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
繰下げ受給 | ・増額された年金になり、生活が潤う。 ・長生きのリスクに備えられる |
・早死にすると損してしまう ・年金受給までの生活費に困る |
年金の繰下げ受給のデメリットとしてさらに問題になるのが、次の2点です。
・繰下げて年金額が増額されると、所得税や住民税や社会保険料が高くなること
・年下の妻を持つ夫に加算される「加給年金額」(年額39万円)が支給されなくなること
しかし、税金や社会保険料などを加味したシミュレーション結果を考慮しても、84歳くらいまで長生きした場合は、やはり繰下げ受給のほうがメリットありという結果になっています。
なおかつ、100歳まで長生きした場合は、繰下げ受給のほうが可処分所得として累計1000万円以上多くなるというメリットもあります(筆者シミュレーション)。